静脈血ガスの取り方と看護手順|動脈血との違いや気泡抜きを徹底解説
病棟の急変時や夜間帯の救急外来において、当直医から「静脈血でいいから至急で血ガスを取って」と指示を受け、手順や物品の選択に一瞬戸惑った経験を持つ看護師は少なくありません。動脈穿刺(A-lineや大腿動脈採血)は医師が施行する施設が多い一方、静脈血採血は看護師が日常的に行うルーチン業務です。しかし、血液ガス分析を目的とした静脈採血には、通常の生化学採血とは全く異なる厳格なルールが存在します。
駆血帯のわずかな締め時間の延長や、シリンジ内の微細な気泡混入、さらにはスピッツへ分注する順番の間違いによって、pHやカリウム、乳酸値といった重要バイタルデータは容易に狂ってしまいます。本記事では、看護師が臨床現場で迷いやすい静脈血ガスの正しい取り方・看護手順から、動脈血との数値の相違、測定値を狂わせないためのピットフォールまで、客観的エビデンスに基づき徹底的に解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:静脈血ガスは酸塩基平衡(pH・HCO3⁻)や電解質・乳酸値のスクリーニングに極めて有用だが、酸素化能(pO2)の評価は不可能である。
- 要点2:1分以上の駆血や採血時のクレンチング(手のグーパー動作)は、局所の嫌気性代謝を促し乳酸値とカリウムの偽高値を招くため「無駆血または穿刺直後の駆血解除」が鉄則となる。
- 要点3:採血後の気泡混入(エア混入)はpCO2とpHを激変させるため、即座に排気してヘパリンと速やかに混和し、15分以上測定が遅れる場合は氷冷管理を行う。
【動脈血との違い】静脈血ガスで何がわかり何が評価できないのか?
静脈血ガス分析(VBG: Venous Blood Gas)は、動脈穿刺(ABG)に伴う動脈損傷や血腫形成、神経麻痺などの侵襲的リスクを回避し、迅速に全身状態を把握できる優れた検査手法です。特に末梢静脈路確保と同時に検体を採取できるため、初期輸液や重症度判定のタイムラグを大幅に短縮できます。しかし、動脈血と静脈血では生理学的パラメータの信頼性が大きく異なります。
日本呼吸器学会や各種集中治療ガイドライン等の知見によると、末梢循環が保たれている安定期であれば、pH、pCO2(二酸化炭素分圧)、HCO3⁻(重炭酸イオン)は動脈血と良好な相関を示します。一方で、pO2(酸素分圧)およびSaO2(動脈血酸素飽和度)に関しては動脈血との相関性が極めて低く、静脈血ガスから呼吸不全や酸素化能を評価することは原則としてできません。酸素化のモニタリングには、必ずパルスオキシメーター(SpO2)の併用または動脈血採血が必要となります。
| 測定項目 | 動脈血(ABG)基準値 | 末梢静脈血(VBG)基準値 | 臨床的相関性と評価のポイント |
|---|---|---|---|
| pH | 7.35 〜 7.45 | 7.31 〜 7.41 | 動脈血より約0.03〜0.05低い。相関性は極めて高く代替評価が可能。 |
| pCO2(mmHg) | 35 〜 45 | 40 〜 50 | 動脈血より約4〜6 mmHg高い。CO2貯留(高炭酸ガス血症)の除外に有効。 |
| HCO3⁻(mEq/L) | 22 〜 26 | 23 〜 27 | 動脈血より約1〜2 mEq/L高い。代謝性アシドーシス/アルカローシスの判定に直結。 |
| pO2(mmHg) | 80 〜 100 | 30 〜 40 | 相関なし(評価不可)。末梢組織の酸素消費量に依存するため酸素化評価には使えない。 |
| 乳酸値(mmol/L) | 0.5 〜 1.6 | 0.5 〜 2.0 | 循環不全・敗血症のスクリーニングに有用。ただし採血手技(駆血時間)で偽高値になりやすい。 |
臨床において静脈血ガスが最も威力を発揮するのは、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)や尿毒症などの代謝性アシドーシスの重症度判定、救急外来でのショック初期評価、および電解質(K⁺・Na⁺・Ca²⁺)の迅速把握です。適応と限界を正しく理解しておくことが、看護師のアセスメントの第1歩となります。

【看護手順書】静脈血ガスの正しい取り方とスピッツ・シリンジの準備
静脈血ガス採血を安全かつ正確に実施するためには、適切な物品選定と手順の遵守が不可欠です。病院のシステムによって「専用の血液ガスシリンジ(乾燥ヘパリン含有)」を用いる場合と、「ヘパリンリチウム採血管(緑キャップ等)」を用いる場合に分かれます。
専用シリンジを用いる場合は、微量な抗凝固剤(乾燥ヘパリン)があらかじめ充填されているため希釈誤差が起きにくいメリットがあります。通常のシリンジで採取した後に採血管へ分注する場合や、翼状針を使用する場合の手順を以下に整理します。
| ステップ | 実施内容と操作のポイント | 看護師が注意すべき根拠 |
|---|---|---|
| STEP 1:物品準備 | 血液ガス用シリンジ(またはヘパリン採血管)、翼状針(21〜23G)、アルコール綿、駆血帯、専用密閉キャップ。 | 細すぎる針(24G以下)は溶血を招きカリウム偽高値の原因になるため避ける。 |
| STEP 2:血管選択・穿刺 | 怒張した太い静脈を選定。駆血帯を巻き、血管内に針が入ったら直ちに駆血帯を解除する。 | うっ血が続くと嫌気性代謝が進み、乳酸値・pH・カリウムが狂うため「無駆血採血」が理想。 |
| STEP 3:緩徐な血液吸引 | 内筒を急激に引かず、血液の流入速度に合わせてゆっくり吸引する(必要量:通常1〜2mL)。 | 強烈な陰圧をかけると赤血球が破壊(溶血)し、ガス成分の遊離やカリウム値の上昇を起こす。 |
| STEP 4:気泡除去と密閉 | シリンジ先端を上にしてガーゼで覆い、軽くタッピングして気泡を集め、即座に押し出して専用キャップを装着。 | 空気中の酸素(約150mmHg)と二酸化炭素(約0.3mmHg)が血液中に拡散し、ガス分圧が変容するのを防ぐ。 |
| STEP 5:混和と提出 | 手のひらでシリンジを挟んで前後・左右に5秒以上ローリング混和し、さらに緩やかに反転させる。 | 微小凝固(マイクロクロット)による分析装置の詰まりと測定エラーを未然に防止する。 |
複数スピッツで一般採血と同時に採取する場合のスピッツの順番にも配慮が必要です。真空採血管採血の標準手順において、血液ガス(ヘパリン管)は「凝固スピッツの後、生化学・EDTAスピッツの前」に採血するのが基本原則です。シリンジで一括採血して分注する場合は、凝固系スピッツの次に速やかに血液ガス用シリンジへ移し、空気との接触時間をミリ秒単位で最小限に抑えなければなりません。
【データ激変の盲点】駆血帯の締めすぎと気泡混入が招く数値異常の真相
臨床現場で最も頻発するトラブルは、「患者の採血データが臨床症状と乖離している」事態です。その大半は、看護師の無意識な手技ミスに起因しています。特に注意すべき2大要因が「駆血帯の滞留時間」と「シリンジ内の気泡混入」です。
1. 駆血帯1分超えと「クレンチング」による乳酸値・カリウムの偽高値
血管が見えにくい患者に対して、駆血帯を強く締めたまま1分以上血管を探し続けたり、「手をグーパーしてください」とクレンチングを指示したりしていませんか?この行為は静脈血ガス分析において致命的なデータ汚染をもたらします。
- 局所循環の遮断:駆血が1分を超えると、末梢組織が低酸素状態に陥り嫌気性解糖が進むため、乳酸値(Lactate)が急上昇し、pHが低下(アシドーシス方向)します。
- 筋収縮によるカリウム流出:クレンチング運動を繰り返すと筋肉細胞内のカリウム(K⁺)が細胞外へ漏出し、血清カリウム値が0.5〜1.5 mEq/L以上も跳ね上がる「偽性高カリウム血症」を引き起こします。
ショックや敗血症を疑う患者で乳酸値が「3.5 mmol/L」と高値を示していても、それが重症病態による組織低灌流なのか、単なる長時間の駆血による手技エラーなのか判別がつかなくなります。「血管確保後に一度駆血帯を外し、穿刺の瞬間に巻き直す」または「穿刺成功後すぐに駆血を解く」ことを徹底してください。
2. 微小気泡がもたらすガス分圧の劇的変化(エア抜き手技の重要性)
シリンジ内に直径2〜3mm程度の小さな空気泡が残ったまま放置されると、血液と空気の間で急速なガス交換(拡散)が始まります。大気中の酸素分圧は約150mmHg、二酸化炭素分圧はほぼ0mmHg(約0.3mmHg)です。
静脈血(pO2: 約35mmHg、pCO2: 約45mmHg)に空気が触れ続けると、血液中のCO2が大気側へ逃げてpCO2が急激に低下し、結果としてpHが上昇(アルカローシス化)します。また、pO2も大気側から酸素が溶け込むことで見かけ上高値にシフトします。穿刺後は1秒の猶予もなく気泡を完全に排気し、空気に触れさせない密閉状態を完成させることが不可欠です。
【保存と搬送】氷冷は本当に必要なのか?検体提出までのタイムリミット
「血ガス検体は必ず氷水につけて提出する」と教えられてきた看護師は多いはずです。しかし、近年の検査医学の指針および病棟POCT(ポイント・オブ・ケア検査)機器の普及により、氷冷の必要性に関するプロトコルは変化しています。
| 提出までの所要時間 | 推奨される保存・搬送方法 | 生化学的・物理的根拠 |
|---|---|---|
| 10〜15分以内に測定可能 (病棟内POCT機器・救急外来など) | 室温保存のまま即時測定 (氷冷不要) | 短時間であれば白血球・赤血球の代謝によるガス消費・乳酸産生の影響は極めて軽微。 |
| 測定まで15〜30分以上 (中央検査室への搬送など) | 氷水(クラッシュアイス+水)で冷却 (氷単体への直置きは禁止) | 細胞代謝を急速に停止させ、O2消費・CO2産生・嫌気性解糖による乳酸増加を抑制する。 |
ここで看護師が犯しやすい重大な誤りが、「氷のみが入った袋にシリンジを突き刺して放置する」行為です。氷ブロックに検体が直接触れると、局所的に0℃以下まで急激に過冷却され、赤血球が凍結破壊(溶血)を起こしてカリウム値が異常高値に跳ね上がります。氷冷を行う場合は、必ず「水と細氷を混ぜた氷水(約0〜4℃)」を使用し、検体全体が均一に冷却される環境を整えてください。
【実態検証と現場のリアル】急変時指示「静脈血でいいから取って」に潜む落とし穴
救急搬送直後や病棟での急変時、医師から「末梢静脈血ガスで全身状態を至急スクリーニングして」と指示が出る場面は日常茶飯事です。しかし、医療事故防止や正確なアセスメントの観点から、看護師が把握しておくべき「静脈血ガスの限界と落とし穴」が存在します。
末梢循環不全・重度ショック時の「動静脈解離」に注意
心原性ショック、敗血症性ショック、あるいは極度の脱水状態にある患者では、末梢血管が高度に収縮し、組織血流が著しく滞留します。この状況下では、動脈血と末梢静脈血の数値差が極大化(解離)します。
- 動脈血pHが「7.35」であっても、うっ滞した末梢静脈血では組織のCO2と乳酸が蓄積し、静脈血pHが「7.15以下」まで激減する現象が起こります。
- 末梢静脈血のpCO2が「70mmHg」を示していても、動脈血では「45mmHg」に保たれているケースがあり、一見重篤な換気不全に見えても実際は局所灌流不全に過ぎない場合があります。
血圧低下や末梢冷感、チアノーゼが著しい重症患者においては、「末梢静脈血ガスの数値は全身状態を過小/過大評価している可能性がある」という前提を持ち、速やかに動脈採血または中心静脈血ガス(ScvO2評価)への切り替えを医師へ提案できる洞察力が求められます。

【プロの結論】静脈血ガスを信頼できるデータにする看護師の判断基準
静脈血ガス分析は、適切な手技手順を踏むことで患者への侵襲を最小限に抑えつつ、迅速なクリティカルケアを可能にする強力な武器です。臨床現場において、静脈血ガスを選択すべき状況と、動脈採血を優先すべき状況の判断基準を以下に示します。
静脈血ガスが最も適している臨床シチュエーション
- 代謝性疾患の緊急スクリーニング:DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)、高浸透圧高血糖状態(HHS)、アルコール性ケトアシドーシス、慢性腎不全の尿毒症などのpH・重炭酸イオン評価。
- 電解質異常の超迅速チェック:致死的不整脈を誘発する高カリウム血症や低カリウム血症の早期判定。
- COPD急性増悪時のCO2貯留除外:静脈血pCO2が40mmHg未満であれば、動脈血でも高炭酸ガス血症が確実に否定できるため、無駄な動脈穿刺を回避できる。
慎重になるべき・動脈採血を強く推奨する状況
- 低酸素血症・急性呼吸不全の重症度判定:ARDSや急性心原性肺水腫など、PaO2/FiO2比(P/F比)を算出して人工呼吸管理の適応を決定する場合。
- 重篤な循環虚脱・難治性ショック:末梢循環が破綻しており、動静脈解離によるデータの歪みが疑われる場合。
- 穿刺部位の選定困難時:極度の浮腫や熱傷部位、動静脈シャント肢、感染徴候のある部位からの採血は絶対に避ける。
静脈血ガス採取における看護師の責務は、単に「血を引く」ことではありません。「無駆血での迅速な穿刺」「確実なエア抜き」「徹底した混和」「時間管理」という一連のプロトコルを忠実に遂行し、医師が迷わず確定診断を下せるクオリティの検体を届けることにあります。
【静脈血ガスの取り方と看護師手技】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:末梢ルート確保の際に、サーフロ(留置針)から血液ガス検体を引いても問題ありませんか?
A1:輸液開始前であれば採取可能です。内外套針を進めて血管確保した直後、シリンジを接続してゆっくり逆血を吸引します。ただし、すでに輸液が投与されているラインや、ヘパリンロックされているルートからの採血は、輸液成分による希釈や電解質異常、pH変動を招くため絶対に行ってはなりません。
Q2:シリンジにヘパリンが入っていない通常の注射器で採血してしまいました。どうすべきですか?
A2:抗凝固剤(ヘパリン)が入っていないシリンジで採取した検体は、数分以内に微小凝固(マイクロクロット)を形成します。これをそのままガス分析装置に導入すると、装置内部の細管を詰まらせて故障の原因になります。直ちに破棄し、専用のヘパリン化シリンジまたはヘパリン採血管を用いて再採血を行ってください。
Q3:静脈血ガスの乳酸値が「3.0 mmol/L」でした。どのように医師へ報告・アセスメントすべきですか?
A3:まず「採血時に駆血帯を1分以上締めていなかったか」「患者が手を強く握り締めていなかったか」手技を振り返ります。手技に問題がない場合は、敗血症や脱水、循環不全による組織低酸素が進行している可能性があるため、血圧・脈拍・SpO2・意識レベル・尿量を直ちに確認し、「末梢無駆血で採取した静脈血ガスにて乳酸値3.0、血圧低下傾向あり」とバイタルサインを添えて迅速に医師へエスカレーションしてください。
まとめ:正確な手技こそが救命の質を決定づける
静脈血ガス分析は、日々のルーチン採血の延長線上にある手技に見えながら、その実態は患者の病態を左右する極めてデリケートな臨床検査です。「酸素化は評価できない」「駆血と気泡でデータが狂う」「迅速な測定または正しい氷冷が必要」というエビデンスをチーム全体で共有し、病棟や救急の現場手順書(マニュアル)を常にアップデートしていくことが、医療安全と患者予後の改善につながります。 (出典: 静脈 血 ガス 取り 方 看護 師(Yahoo!ニュース))